イリヤの空、UFOの夏。
『イリヤ』読了。
駆け抜けるようなUFOの夏は過ぎ去りました。
押し寄せるセミの声は、さざなみのようなひぐらしの声へ。
真夏の夜の夢は、想いの軌跡を尾のように引きながら、茜色の空に消えていく。
夏が終わる。
少年の、ひと夏の物語が幕を閉じる。

そして、少女は、空へ――。
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全4巻と、ラノベとしては短めにまとまった『イリヤの空、UFOの夏』も、終了。
人気があるとは知りつつも、手を出していなかったのは勿体無かったかな。
人気にたがわぬ傑作だったと思います。(好みに合ったというのもありますが)
この4冊が、私の本棚から消えることはそうそう無いだろうなぁ。
古本で買ってきた1巻も、そのうち新品で買い換えてこよう。


物語の設定的には、そんなに真新しいものではない。
いわゆる「セカイ系」に属する物語なのだろうけど、思えば自分はセカイ系も好きなので満足。
オカルトな力がどうこうとかではなく、SF寄りなのも好みだったり。
世界がどうこうはオマケで、少年と少女の青くて春な物語でした。
ラノベの多分に漏れず、キャラクターが気に入るかが評価の大きな分かれ目でしょうね。


浅羽は、どうしようもなく普通の少年だった。
特別に強いわけでもなく。何ができるわけでもなく。
そんな無力な自分に歯噛みしつつも、ただ好きな女の子のために蛮勇を振り絞る。
しかしそれも虚勢に過ぎず、及ぶ力などたかが知れていて、それでももがき足掻く。
足掻いて、限界という名の現実にぶち当たり、自棄になり、後悔して、打ちのめされて。
浅羽は罪深い。
だが、彼の根の部分はお人好しであり、それゆえに悩み傷付きながらも、足掻く。
その足掻きが、意味を成さないものだったとしても……。

作品前半は、彼の振り回されつつも頑張る姿が好印象。
ヒーローではない、彼なりの頑張りがイイ。
強さ、と言い切れるほどの強さは無く。弱さも多く。
それでも、時にがむしゃらに頑張る姿は、読んでいて清々しい。
そして後半では……環境に追い詰められていく中、やはりどうしようもなく普通の少年だった。
ただの中学生に過ぎず、大人に何一つかなわず、金銭などの現実問題はどうしようもなく、全てを背負い込めるほどの器もなく、束の間の楽園も壊れ、激昂して、後悔して、打ちのめされる。
終盤の彼を包むのは、ただの一言、「やるせなさ」に尽きる。
そして、怒りの矛先が自分であるということも、なんともやるせない。(自業自得の面も多いが)
それでも、伊里野と一緒にいるために足掻く姿は、美しかったと思う。


そして……伊里野は。

「いりや、かな」
「なめてみる?」
「うるさい。あっちいけ」
「ほんとの空襲だったらよかったのに」
「――だいじょうぶ、へいき、」
「浅羽の好きにして」
「――浅羽と同じのでいい」
「さいごのは、うそ」
「あきほには、ぜったいまけない!」
「だいじょうぶだいじょうぶ、へいきへいき」
「見えるよ! ちゃんと見える、見えるもん」
「いまっ、おまもりっ、なんてっ、いちどもっ、ほしっ、おもっ、なかっ」
「あたま軽い!」「せなか熱い!」
「浅羽、そこにいる?」
「なにもされてない」
「殺すつもりで刺したのに」
「いかない。浅羽を待ってる」
「ビンゴ、フュール!」
「今日は九月二十六日。明日は学園祭。明後日はファイアストームの日」
「へいき、わたしもいま来たところ」
「これなに?」
「明日、学校へ行く」

「好きな人が、できたから」

不器用で、純粋で、世間知らずで、そして深い闇を背負った少女。
理不尽な命運を背負った伊里野は、それでも「だいじょうぶ、へいき」と言いながら往く。
弱音を吐かず、あまりに不器用に、あまりに愚直に。
「浅羽がいるから」
その一言が、伊里野の背を押す全て。
浅羽、浅羽、浅羽。
そんな浅羽だけだった伊里野にも、一緒に遊びに行く仲間ができ……しかし、指から零れ落ちていく。
理不尽な力が、彼女から多くを奪っていく。
浅羽。
残ったのは、必死で手放さなかったのは、浅羽への想い。
そして、それゆえに、伊里野は。



ああ、4冊しか無いのが勿体無いなぁ……もっと読みたかった。
しかし、コンパクトにおさまったので、話としては過不足は無いのがネック。
この短さでおさまっているのが美しい収め方でもあるし、でももっとこの世界を楽しみたかったのも事実。
ドタバタパートならもうちょい増やせただろうけど、急転してシリアスモードに突入していく様を考えると、やはりこのぐらいがベストだったかなぁ……。

何は無くとも、浅羽&伊里野の二人が大好きでした。
まあ、問うまでもなく伊里野優先ですが……w
伊里野の「だいじょうぶ、へいきへいき」がもうね(つд`)

朝方錯乱してたネタに関しては、二通り解釈できるんで……良い方向に解釈しておきたいけど、うーむ。
描写だけだと、どっちにも取れるんだよなぁ……。決定打に欠けるのがネック。
ある描写に着目すればプラスに考えられるものの、伊里野のそぶりと泣き声を考えるとマイナスに……罪な見せ方だよ、上手いけど_| ̄|○
イリヤ系のスレとかではプラス方向で確定扱いみたいなんで、自分もそう思っておこう。
うむ、そう思わないと救われん(つд`)


てわけで、ドタバタの楽しさも、シリアスの悲愴感も、ともに一級品の良作でした。
個人的には殿堂入り。未読の人には、是非オススメしたいですね。
まあ、好みに合いそうなら……だけど(笑)
いやしかし、読む前はタイトルだけ見て「UFO探しの話かな」と思ってたら全然違ったので笑ったw
しかし、読み終えた今は、見事なタイトルだと思います。
また少し時間を空けたら、最初から読み直すかな。
後半は特に先を先をと読み進めてたんで、次はじっくり文章を吟味しながら。

では、このへんで。
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by tenrensenka | 2006-05-24 00:02 | 本。

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